教員インタビュー
「やらなきゃいけない」が、やり続けたことで自分の武器に。

笛田 薫
データサイエンス学部 教授
研究分野:数理統計学
データからその背後を推定するとき、「どうしてその推定方法だとその精度が得られるのか」という部分について数学に基づいて説明できるということは、データサイエンスが活用される様々な分野において大切なことです。そんな数理統計学の分野で研究をするかたわら、滋賀大学データサイエンス教育研究センター長として企業と大学の連携に日々大きく貢献されている笛田先生に、これまでの経緯や研究内容などについて語っていただきました。
聞き手 データサイエンス学部4 期生/ 3年(当時) 松本 拓朗
※本記事は、滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターのセンター誌『Data Science View Vol.6』の特集企画『私の「研究」履歴書』に掲載された記事の内容に若干の修正を加えたものです。本文中に記載されている内容や所属・肩書き等はすべて取材当時のものです。
生きるための道具だった数学を自分の強みに
Q.数理統計学の研究者となった経緯を教えてください。
僕が小さいころから算数や数学に取り組んできたのは、「大好きなもの」だからではなく、「生き残るにはこれしかない」って思ったからですね。小学生時代に算数のテストで満点をとってからいじめられなくなったり、高校生時代コミュ症だった僕に、ネットも豊かじゃない当時の状況もあってか勉強の相談で色々な人から喋りかけて貰えたり。今だったらガリ勉って言われて余計いじめられるかもだけど、そうやって人間関係などで困らないための道具として算数や数学を頑張っていた訳です。
その後大学で進路を決める時になって「今までずっと数学を武器としてやってきたのだから、その強みを伸ばしたい」と思うようになりました。自分の「売り」とは何かを意識するようになったのがその時です。当時の環境で、専念して成果を求めていける職が欲しいと思ったことも大きいのですが、自分の強みを磨くため、学科の特色でもあった数理統計学の分野で大学院に進学して、流れるように研究者になることを決めました。小学校から高校まで「やらなきゃいけない」からやっていた数学ですが、やり続けていたからこそ、それが自分の強みになると思ったんです。
研究者として/センター長として
Q.数理統計学の分野で、先生はどのような研究をされていますか?
データを用いてその背後がどうなっているのかを推定するアプローチには数学が基礎にあります。細かい分野は様々ですが、「このような推定手法だとこのような理由でこれぐらいの精度が得られる」といった推定の手法について、あくまで数学をベースとして考えていくというのが僕個人の研究です。こうした研究分野では、いくら良い結果や活用事例を揃えても「なぜそのぐらいの精度が出るのか」というところまで数学で証明できないと論文にするにも認められないんですね。
Q.センター長としてのお仕事では、どのようなことをされていますか?
新規の企業様から解決したい問題のお話を聞き、まずそれがデータサイエンスの手法で解決できるかどうか、そしてどのようなデータとどのような手法が必要かを相談しながら考えます。そして、考えたことにあわせてデータを用意してもらうよう伝えて、手法に合わせて本学の先生を紹介して共同研究の契約を結ぶ、というのが僕の仕事です。言うなれば大学にある、企業向けのインフォメーションセンターですね。
「手段」としての学問が企業と大学を繋ぎ留める
Q.研究や、センターでの活動の中で先生が感じていることについて教えてください。
僕にとって数学は、小さい頃から「手段」であり、今でもそうだと思っています。でも、それが今の自分に活きているなぁということは強く実感します。僕は大学の先生、つまり学問が好きでそれ自体を目的とする人たちには、是非とも学術的な最先端の場所で、やりたい学問を極めてほしいと強く思っています。一方で、世間一般の企業は必ずしも学術的に最先端のことを必要としているとは限りません。大学としても、ある程度企業に役立つことをしないと生き残ることが難しいです。そこで、学問を「手段」と考えている自分ならその間にちょうど良く入ることができると思ったんです。「やらなきゃいけない」で数学をやっていた僕と、データを活用して本業に活かさないといけない企業って、なんだか似ているなぁて思って。
予測できない変化に対応する力
Q.これからデータサイエンティストになる方々へのメッセージをお願いします。
社会とは誰にも予測できないような変化が起きるものであり、現在の状況がそのまま将来も約束されるということは決してありません。僕自身の目から見ても、進路を決めた当時と現在を比べると、大学教員という職の立場も、企業への就職のあり方も、様々なことが大きく変わったと実感しています。このような変化は、現在手に入る情報から最適な進路を選べた人も、中々思い通りにならないという人も、この先社会に出ていく全ての人がいずれ体験することになるものだと思います。大切なのは、予測できない変化が起こった時、その時点で手に入っている情報を使うことで的確に対処していくということです。予測できない変化が起こるということ自体は予測できるのですから。
第四次産業革命とも呼ばれる現在、データサイエンスという学問は社会にとって必要だと言われていますが、裏を返せば社会がまだ使いこなせていないから、必要だと言われているのだと思います。まだまだ社会に浸透していない難しい学問ではありますが、だからこそ重要な学問です。この先も、データサイエンスという世界をしっかり前に押し進めていって欲しいと願います。
