教員インタビュー
会社員人生と大学の教員人生ってこうも違うのかっていうくらい違って、そういう意味では人生2度おいしい経験をさせてもらっています。

河本 薫
データサイエンス学部 教授
研究分野:意思決定とデータサイエンス
ビッグデータの様々な領域への活用が求められる中、データサイエンティストの不足が課題となっています。河本教授はデータ分析を意思決定に役立てるプロセスに関する研究を行うとともに、データサイエンティストの育成に尽力されています。そんな河本教授に学生時代から現在行っている研究内容まで幅広く語っていただきました。
聞き手 データサイエンス学部2期生/3年(当時) 鉗持 実祐
※本記事は、滋賀大学データサイエンス・AIイノベーション研究推進センターのセンター誌『Data Science View Vol.4』の特集企画『私の「研究」履歴書』に掲載された記事の内容に若干の修正を加えたものです。本文中に記載されている内容や所属・肩書き等はすべて取材当時のものです。
悔いの残る学生時代
Q.先生はどのような学生時代を過ごされましたか?
もう少し勉強しておけばよかったと思う、悔いの残る学生時代でした。良い大学に行くことがゴールのような感じで受験勉強をしたので、大学に入ったらその反動で遊びたくなり、皆さんに「勉強せえ」と言う資格がないくらい(笑)。僕は、結構小さい頃から海外に対しで憧れがあり、勉強してるふりをしては、ヨーロッパの鉄道の時刻表を買って、時刻表の中で仮想的に旅行していました。大学入学後、アルバイトをしまくって、よく海外に旅行していました。なにか知らない世界を覗いてみたい思いが、もの凄く強かったのかもしれないですね。
Q.学生時代に悔いが残る生活とおっしゃっていましたが、いつ痛感しましたか?
バブルの頃で会社にも余裕があり、入社後ものんびりしていました。30代を前に、自分には強みが無く、これから生きていけんのかと急にすごく不安を感じたんです。そこから歯車が逆回転して、自分には何があるか考えたとき、今やっているようなデータ分析だけが、どれほど人より優れているかはともかく、なにか取り柄として可能性があるのではないかと思いました。その時に、もっと大学でちゃんと勉強していたらなぁ…とすごい後悔したことを覚えていますね。
会社員から大学教授に
Q.先生はなぜ会社員からデータサイエンス学部の教授になられたのですか?
僕自身、大阪ガスの分析チームで若手をずっと育成してきて、数学やプログラムという方法論だけでは足らないという意識があり、それを教えてきた自負がありました。そんな中、滋賀大学から、企業の経験を持っている人も教員に1人必要で、まさにその足らないところを教えてほしいというオファーが来たんです。会社で分析チームを設立させて、軌道に乗せ、後継者も育成できたという一つの節目を迎えたこともあり、ー大決心をしました。会社や同僚に対する愛着や辞めるという心理的なハードルを乗り越えたのは、50歳を超えて現役最後の仕事として人材育成をしたい思いと、日本で初めて作られたデータサイエンス学部を成功させるという使命感がありました。
Q.企業にいたころと現在の大きな違いはありますか?
会社を辞めてビジネスの方との接点が減ると思ったら、意外と逆で、教員になったことで警戒されなくなり、いろんな企業さんが話しかけてくれたんです。結果的に、教員になって企業の方々との付き合いの幅が広がったことは嬉しい誤算でした。あとは、驚くほど飲みに行く回数が激減しました(笑)。前職時代は、ほぽ毎日いろいろな人と飲みに行っていました。健康には良いけど、寂しいです。会社員人生と大学の教員人生ってこうも違うのかっていうくらい違って、そういう意味では人生2度おいしい経験をさせてもらっています。
見つける力と使わせるカ
Q.先生は普段どのような研究をされていますか?
前職時代に、方法論だけでは足らないことをすごく痛感してきました。僕の書籍に一番エッセンスとして書いてあるのが、「見つける」→「解く」→「使わせる」ということです。つまり会社に対して成果を出そうとすれば、「解く」という方法論だけでは足りず、結果がビジネスに役立つために、何を分析すればいいのか、その分析するものを「見つける」こと、さらに分析結果を実際の業務に「使ってもらう」ことが重要だということですね。でもこれは結構概念的で、世の中に広まらないので、僕は「見つける」力、「使わせる」力を具体的に形式知化する研究をしています。「見つける」力とは、意思決定プロセスの枠組みからデータ分析で何を解けばプロセス改善に役立つか否か考える力、「使わせる」とは、意志決定者に行動を促すプロジェクトマネジメントの力です。こういうのは、実はグローバルに見ても誰もやっていないんですね。だから、0から形式知化して体系化することは僕の使命の一つだと思っています。僕の場合は、ビジネス誌に論文を出し、外部に講演会などで発信することで、研究のフィードバックをもらっています。企業のアドバイザーという経験やいろいろな企業さんとの交流を通して、僕の世界観がだんだんと広がり、研究につながっています。
データサイエンスを武器に
Q.これからデータサイエンティストになる方々にメッセージを一言お願いします。
データサイエンスは社会や企業を良くする手段であり、目的ではありません。社会や企業を良くしたいという目的意識を強く持ち、データサイエンスという武器で大きく羽ばたいてください。
